是非読みたい香月院深励師の講録

国立国会図書館デジタルコレクションで読める深励師の講録

現在、国立国会図書館デジタルコレクションでは多くの香月院深励師の講録 (講義録) が公開されています (こちら)。その中でも特に注目すべきモノ、もしコレ全部読めたらかなり勉強できるだろうと思われるモノを下記に挙げさせて頂きます。

書名対象分冊備考 (別収録の本)
仏説無量寿経講義 *1 *4大経巻1 – 巻7『浄土三部経講義1』(法蔵館)
『仏教大系』浄土三部経
仏説観無量寿経講義 *2 *4観経巻1 – 巻19『浄土三部経講義2』(法蔵館)
『仏教大系』浄土三部経
阿弥陀経講義 *3 *4小経巻1 – 巻8『浄土三部経講義3』(法蔵館)
『仏教大系』浄土三部経
教行信証講義 *5 *6本典*登録会員限定
巻1 – 巻25
*登録抜け有
『真宗大系』13巻~15巻
『新編 真宗大系』1期-5巻
『仏教大系』教行信証
浄土論註講述 *7論註巻1 – 巻6 『浄土論註講義』(法蔵館)
『続 真宗大系』2巻~3巻
『新編 真宗大系』5巻~6巻

浄土三部経とご本典 ( 教行信証) そして論註の講録です。これらは国立国会図書館デジタルコレクションにて読むことができます。またもし手元にて刊行本を読みたいと思った時にも入手手段があります。下記にソレを記させていただきます。

*1 仏説無量寿経講義

法蔵館から『浄土三部経講義1 無量寿経講義』として出版されています (いました)。今は在庫が切れているようですが今後どこかで重版される可能性もあります。また古本が流通していますので「日本の古本屋」で在庫をチェックしていれば入手が可能と思われます。

この法蔵館版の本の良いところはひらがな漢字でかつ活字が最近のモノなので読みやすいということ、そして何よりも末尾に索引がついていて調べやすいという事が挙げられます。これを手元に持っていると調べ物をするときに作業がはかどります。

*2 仏説観無量寿経講義

法蔵館から『浄土三部経講義2 観無量寿経講義』として出版されています。コレを書いている時もまだ法蔵館に在庫があります。出版元から新品の入手が可能です。また古本も流通していますので「日本の古本屋」で在庫をチェックしていれば入手が可能だと思います。こちらもひらがな漢字での最近の活字でさらに末尾に索引がついていますので手元にあると便利です。

*3 阿弥陀経講義

法蔵館から『浄土三部経講義3 阿弥陀経講義』として出版されています。コレを書いている時もまだ法蔵館に在庫があります。こちらもまだ出版元から新品の入手が可能です(法蔵館の在庫は売り切れたようです)。また古本も流通していますので「日本の古本屋」で在庫をチェックしていれば入手が可能だと思います。こちらもひらがな漢字による最近の活字で更に末尾に索引がついていますので是非手元に欲しい1冊です。

*4 浄土三部経講義(会本)

上記の3つ ( 仏説無量寿経講義、仏説観無量寿経講義、阿弥陀経講義 ) の講録は実は『仏教大系』にも会本として収録されています。『仏教大系』浄土三部経にあります (こちら) 。国会図書館に会員登録してログインすることで内容についても閲覧可能です。

『仏教大系』は大正時代 (大正7年) に出版されたもので古本としても流通していますが、その中にある『仏教大系』浄土三部経の古本はなかなか古本屋には出てこないです。それよりも中山書房仏書林さんが現在もオンデマンド出版にて新品本を発売されてます (こちら)。全5巻で48,400円 (税込み) です。

会本 (エホン) とは何人かの講本を講じている経典等の一定区切り毎にまとめ直して会わせていくものです (こちら)。『仏教大系』浄土三部経ではほぼ香月院深励師の浄土三部経の講義がメインとなっていますので、これを入手することで深励師の浄土三部経の講義を網羅できます。そしてそれだけでなく浄土三部経の該当する御文について、会本に収載されている他の学者の講録と見比べることができます。

ちなみに深励師の大経、観経、小経それぞれの講義の他に会合されているのは、大経は西の道隠師 (大無量寿経甄解) と浄土宗の観徹師 (無量寿経合讃)、観経は慧雲師 (観無量経微笑記) と観徹師 (観無量寿経合讃)、小経は僧鎔師 (阿弥陀経緯) と観徹師 (阿弥陀経合讃)です。

今入手できる『仏教大系』オンデマンド版はソフトカバー本 ( 旧版は外函付きハードカバー本 ) になりますが、法蔵館の古本と同じかそれよりも安く新品が入手できます。深励師だけでなくお西の学者や浄土宗の考え方も併せて確認できますので特に書斎の本棚に陳列させる為ではなく勉強用の実用書と割り切れる方にはこちらも良い選択かなと思います。

上記『仏教大系』に対して法蔵館の浄土三部経は古本で3冊セットだと5万円~6万円くらいで流通しています。こちら法蔵館版のメリットはなんと言っても末尾の索引です。どちらも欲しくなります。

*5 教行信証講義

元は玉恵堂の出した和本です。たしか南條文雄師が持っていた写本を底本として刊行されたものだったと思います。コレと更に別の写本とを校合して『真宗大系』13巻~15巻収録の『廣文類会読記』が出されていたと思います。『廣文類会読記』はカナ漢字です。活字はちょっと古いですが洋本ですし非常に読みやすいです。もし入手できるのならコレ (『廣文類会読記』) が一番かなと思います。

この『教行信証講義』も『廣文類会読記』も元は同じ講義の講録です。当時はまだ本典講義は憚られていた時代ですのでこの講義も高倉学寮の夏講ではなく長浜邸、浜暢院之邸にて講義をされています。またこの講義の一番最初に「これは講義ではなく会読である」と深励師自らが宣言しています。深励師は「信巻」講義が終わったところでご往生されましたので、これら『教行信証講義』『廣文類会読記』は「教巻」から「信巻」までの講義しかありません。それでも行信については網羅されていますので非常に有用であると思います。

真宗大系について

『真宗大系』の中で13巻~15巻だけがまとまって古本屋に出てくることはなかなかありません。なので『廣文類会読記』だけを狙っていても欲しい時には入手に手間取るかも知れません。それよりも『真宗大系』を全巻まとめて買う方が正直いって楽です。まとめて買うのであればセットの中古本は良く出ています。「日本の古本屋」で検索して購入が可能です。

『真宗大系』は昭和5年からの最初に出た版と、昭和50年頃に再販された版と、平成6年に再々販された版の大きく3種類があります。あとから出た方が紙はきちんとしていてソレはそれで良いのですが再販版 (再々販版も) は古い版を元に写真製版しているだけなので正直いって文字の見え具合の方はあまりキレイではありません。だからといって初版の方がよいかといえば初版は活字こそキレイですが紙質や本自体が劣化していてそれで読みづらかったりもします。

平成6年版は全巻一括でしか販売されなかったのかほぼ全巻セットでしか流通していなかったりもします。またこの平成6年版ではハードカバー本なのは一緒ですがそれまで (再販本まで) は外函付きだったものがブックカバーのみに変更となりました (元から外函がありません)。外函のある昭和50年代の再販版の方が高級感があったりします(外函がついていれば‥ですが)。これらを考慮してどの版を購入するかを考えなければなりません。

日本の古本屋」で検索して出てくる本のタイトルも『真宗大系』『続 真宗大系』『新編 真宗大系』とかがあるのでパッと見では何が何がなんだか分からない感じです。

『真宗大系』と『続 真宗大系』は一続きのもので内容的に別の講録が収録されています。よってこれら正編『真宗大系』と続編『続 真宗大系』の61冊をまとめて購入すれば全部が網羅されます。対して『新編 真宗大系』は『真宗大系』と『続 真宗大系』からの選りすぐりなので正編続編と内容が重複しています。また古本として見た場合には発刊年代の古い『新編 真宗大系』は紙質が傷んでいたことが多いので私は敬遠しています。

選りすぐりを『新編』として出すのは『真宗全書』も同じで、『新編 真宗全書』は『真宗全書』の選りすぐりです。ただし『新編 真宗全書』の場合は教義編最終巻の第20巻だけは編集当時に見直して『真宗全書』にないものを新たに集めて収録していたと思います。一方『新編 真宗大系』ではそのような新しく収録したものはなかったようです。

真宗大系のメリット

『真宗大系』のメリットについて書いておきたいと思います。『真宗大系』のというよりもその中に収録されているお東 (大谷派) の江戸講録を揃えることのメリットについてです。

『真宗大系』はお東の江戸講録が中心で他は収録されていません。お東とお西では江戸宗学での学問上の変遷に違いがあります。お西では三業惑乱以降に地方で学轍が生まれました。これはお西の学問が多様な考え方を持つことを意味します。空華や石泉など色々な考え方があるのが特徴です。反面それぞれの学轍に残されて活字化された書籍という面でみると、全部の聖教についての講録が残されている訳ではありません。お西の講義本を収録している『真宗全書』や『真宗叢書』をみても、それぞれの学轍を均等に収録して偏ることがないよう配慮されていたりします。

一方でお東は特に地方に中央とは違う考え方が存在することは無かったようです。これは江戸中期に香月院深励師が登場したことも大きいようで彼の考え方に統一されていった感があります。例えば九州には別の一派があったそうですが、九州の学派だった易行院法海師が高倉学寮で香月院深励師に傾倒してその考え方を踏襲し、それを九州に持ち帰ったので九州の学派も深励師の考え方に統一されていったとのことのようです。

これにはデメリットもあります。深励師の考え方を超える学者が登場しずらくなった一面があろうかと思われます。お東では深励師の弟子達が活躍して、孫弟子くらいになったところで学問の固定化が起こったとされています。偉大な先哲の考え方を覆すような考え方が登場しづらい環境になっていたことが予想されます。

このことをメリット面から見てみると、数世代にわたる様々な学者が同じような考え方をもってお聖教に向き合っていることになります。『真宗大系』のメリットとは、異なる学者が講義されたものでも高倉学派という同じ考え方を基に講じられているということです。深励師の残された講録が数多いとはいっても、いまある全部の聖教に対しての講録は残されていません。またもし講録があっても講義の中での濃淡がありますので、いま確認したいところにどれほどの記述があるかにも差が出ます。

『真宗大系』をみるときに、特に深励師以降の方の講録では深励師と同じ考え方によって講義がされていることが多いのです。これは高倉学派というひとつの大きな考え方の中で様々な学者が様々なお聖教に対して同じ考え方を基に講義をされていることにもなろうかと思います。

もちろん深励師と同世代の頓慧師や宣明師などはそれぞれに特徴をもっていますので、彼らの講本をみることで深励師だけの考えに偏る事無く見ていく見方もできるかと思います。この辺りを踏まえると『真宗大系』は西の学轍の講録を読むときとはまた違った使い方ができるかなと感じる次第です。

*6 教行信証講義(会本)

『仏教大系』教行信証にも深励師の『教行信証講義』が収録されています (こちら)。先に述べたように深励師の『教行信証講義』は「信巻」までしかないのでソコから先 (「証巻」以降 ) は代わって皆往院頓慧師の講義が収録されています。

この『仏教大系』教行信証は古本が滅多にでないので古本での入手は難しいかもしれません。しかしながら先に述べた中山書房仏書林さんからオンデマンド出版にて販売されていますので今でも新品本の入手が可能です (こちら)。全9巻で82,500円 (税込み) です。オンデマンド版はソフトカバー本でこれまでの外函付きハードカバー本に比べると軽装となっていますが新品でいつでも入手できます。このオンデマンド版の価格を安いと見るか高いと見るかは人それぞれでしょう。

『仏教大系』教行信証は『教行信証』の各区切り毎に六要鈔、教行信証大意、正信偈大意、東西2名ずつの計4名の宗学者の講録講述が会合されています。お東からは宣明師、深励師 (「証巻」以降は頓慧師)、お西からは道隠師、興龍師です。お西の2人は漢文で書かれているのに対してお東の2人は和語の講義録です。またそれら和語の講義録はかな漢字で書かれています。『真宗大系』の『広文類会読記』がカナ漢字だったのに比べるとコッチの方が格段に読みやすいです。ご本典の全てについて引文の細部にいたるまでが網羅されていますので『教行信証』の勉強にはうってつけの本です。なかなか古本市場に出てこないのも道理だなと思います。

ちなみにこの『仏教大系』教行信証だけを法蔵館が再販したものとして『教行信證講義集成』全9巻があります (こちら)。昭和50年頃に出されました。これもあまり古本とかでてこないものだと思います。

皆往院頓慧師の教行信証講義について

この『仏教大系』に収録された皆往院頓慧師の教行信証講義ですが、『真宗全書』に収録の『教行信証報恩記』(漢文の著述書) ではなく、また『真宗大系』に収録の『廣文類聞書』(和語の講録) でもありません。それらとはまったく別に『証巻講義』『真仏土巻講義』『方便化身土巻講義』という3つの和語の講録があるようです (こちらこちら)。

住田智見師の『大谷派先輩學系略』(『真宗大系』第37巻収録 ) によると、香月院深励師が教行信証の講義を「信巻」まで終えられたところでご往生されたことを受けて皆往院頓慧師が自ら補講する形で残り部分を講義されたとあります。これは深励師が皆に慕われていたエピソードの一つとして紹介されています。この補講をされた時の講録が上記の国立国会図書館にて公開されている本で、これが『仏教大系』教行信証でも深励師の講義を補完する形で載せられているようです。ちなみに結果的にですが皆往院頓慧師のご本典講録著述は『真宗全書』、『真宗大系』、『仏教大系』にて別のものが3つも活字化されていることになります。これはちょっと貴重だと感じます。

ここで話は更に脱線しますが、全国図書館にある蔵書を検索できる国立国会図書館サーチというHPがあります。ここで「教行信証 深励」とかをキーワードにして検索すると、「教行信證眞佛土化身土巻講義」( 光融館 ) というのがヒットすると思います。最初、深励師に真仏土巻や化身土巻の講録があったのかと思ってなんとか見たいと思っていたのですが、これは多分上記の頓慧師の講録のことだと思われます。発行年月 (1910年6月) とか出版社、各巻ページ数までがぴったり一致してますので。よく見れば著者が「香月深励, 末松頓慧著」となってます。ここで深励師を著者にいれるのはどうかなと思うのですけど収蔵する書籍の表記がそうなっていたんですかね。

*7 往生論註講述

法蔵館からでている (でていた)『浄土論註講義』がおすすめです。ひらがな漢字での比較的最近の活字で読みやすいですし何といっても末尾に索引がついています。「日本の古本屋」では検索で常時何個かはヒットします。書き込みのないと思われる綺麗なモノから書き込みがあるものまで色々ですが多少のプレミアムがついて1万円~3万円くらいで購入できます。深励師は論註の講義を何回かやられているはずですが護法館の『往生論註講述』と法蔵館の『浄土論註講義』が内容が同じかどうかはちゃんと比べたことがないので分かりません。

『続 真宗大系』の第2巻~第3巻にも『註論講苑』として論註の講義が納められています。これはカナ漢字です。これら『註論講苑』を底本にして法蔵館の『浄土論註講義』は活字を新たにして出版されているようです。このことは『浄土論註講義』のあとがきに書かれています。書体をひらがな漢字に改めて活字が新たに組まれているのでより現代の活字になっていて読みやすいです。また『註論講苑』には索引等が無いのに対して法蔵館版には末尾に索引がついていますので、どちらかを揃えるのなら法蔵館版にしておくと索引が利用できて便利です。

『新編 真宗大系』第5巻~第6巻にも『註論講苑』が収録されていますが、こちらは辞めた方が良いかも知れません。私は最初これを購入したのですが本の劣化が激しくあまりにも紙質が悪くて正直読みづらかったです。

『浄土論註講義』 (『註論講苑』) の評価

お西の学者、相馬一意師が香月院深励師の論註の解釈を高く評価されていて、今の宗学が江戸宗学の到達点から衰退してしまってソコ ( 江戸時代 ) まで行っていないという事を指摘されています。その根拠としてこの深励師の『浄土論註講義』(『註論講苑』) を出されていて、彼が実際に論註の註釈版 (七祖編) 編纂に携わった経験を通して、今の解釈 ( 七祖編脚註等 ) が深励師の解釈に及んでいない部分を何カ所かに渡って指摘されていました (「往生論註研究の地平 -香月院深励の切り開いたもの-」, 相馬一意, 行信学報 (6) 1992 ) 。この論文、国会図書館デジタルコレクションにて会員の方はログインして読むことができます (こちら : 要ログイン)。

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